政策形成と日本型シンクタンク

政策形成と日本型シンクタンク―国際化時代の「知」のモデル

政策形成と日本型シンクタンク―国際化時代の「知」のモデル

  • 作者: アーバンインスティテュート,The Urban Institute,上野真城子
  • 出版社/メーカー: 東経
  • 発売日: 1994/04
  • メディア: 単行本
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本の元ネタはアーバン・インスティチュートの報告書

調査は1991〜、報告書は1993、この本は1994出版なので多少情報は古い。

「冷戦後の世界をどう動かすか?」みたいなスタンス。

ちなみに日本は細川政権成立後。


「日本は今日、政府と財界に対して客観的な分析、判断、助言を施せる独立のシンクタンクを持たない唯一の大国である」

シンクタンクは本来非営利であるべき。

調査の独立性や、公共性(依頼者の所有権・著作権に触れず公開できる)の観点から。

日本に本格的なシンクタンクを求める声は内外から上がっているがなかなか実現しない。



第一章


日本は基本的に欧米のシステムを輸入して成長。

最近は行き詰まり

しかし自力でシステムを構築する機構はない


日本において政策とは既得権の調整産物

大きな変化には対応しづらい

総合研究開発機構(NIRA)『シンクタンク年報』


日本にシンクタンクはあるか?

「政策に関する調査研究を行う組織」ならある。

「政策形成に影響力を持つ組織」はない。


1960年代後半 シンクタンクブーム

1966 野村総研(S&Iを模範)

1970 三菱総研(バテルを模範)

産業界からの受託研究を目的

他に政府主導で政策研究のための公益法人(ただし小規模)


1970 政府がシンクタンクの必要性を指摘


1974 総合研究開発機構(NIRA

政府系シンクタンク。政策研究と民間シンクタンクの育成が目的


70年代と80年代は地方での設立が相次いだが、オイルショックの影響などで大きな資本は投下せず。

85年から再びブーム。


約4割が営利で約6割が非営利

ただし非営利シンクタンクは大部分が省庁の下部組織なので、結局ほとんどが所属機関の影響を受ける


大学の研究所には(この調査の段階では)政策を扱う場所はほとんど存在しない


日本の政策の立案者

官僚(短期的な調整を重視しがち)

政治家(主として族議員

審議会(実際は官僚が法案を通すための隠れ蓑に過ぎない)


政党内の政策グループは政策研究よりも派閥の色合いが強い


1979 大平首相が審議会の実質化を検討

死亡により頓挫

中曽根首相 委員会を設置

実際は派閥の弱い自分の力を補うために私的に利用

政策の向上・実行に一定の効果?


シンクタンク機構と政策研究という概念は共に1960年代に日本に輸入された


研究者 政策研究も応用より基礎重視

シンクタンクに所属していてもアカポスまでのつなぎ

終身在職権で研究意欲、特に専門よりやや外れた分野の研究意欲が低下

一般向けの啓蒙活動も評価されない

専門で扱う学科もない(ただしできつつある。1991年の段階で)


政策研究の元になるデータが得にくい。

秘匿しているわけではないが、直接官庁に要請しないと手に入らない


日本には「政策実験」という概念がない。

批判→実施→評価のプロセス

批判も評価も避けたがる


政策研究のための助成金が少ない(利害関係者の依頼で行うしかない)


日本では「独立セクター」が不人気。(NPO的な)


日本の受験→詰め込み学習→主体的な政策立案に向かない

官僚はその中で最適化した人物(まぁやや安直な批判ではあるけれど)

大学教育は実質化していない→プロフェッショナルを生めない


終身雇用→政策立案に必要な広い知見を持った人物を生まない


メディアも政策について深く論じない(視聴者の好みも影響)



第二章

シンクタンク研究員の生活

イザベル・ソーヒルをモデルに

著作『レーガンの実験』(一般にもかなり売れた)

上院の委員会で頻繁に意見を求められる


…まぁ要はいろんな仕事があるという。

時間があったら通して読む。



第三章


シンクタンクアメリカで発達

最近(1990前後)はヨーロッパでも広まる


日本はどのようなシンクタンクを作るべきか?

国内の問題の方がデータに基づいた科学的決定の意義が大きいのでは?

最初はあからさまに利害の対立する問題は扱わない方がいいのでは?(信頼を得てから扱う)


誰に研究成果を「聴かせる」のか?

通常の相手(例えば若手官僚)と意思決定者(官僚のトップクラス)が異なる場合も。

幹部を呼んだセミナーで売り込むという手が。


個別の政策を研究するか、包括的な戦略を研究するか?


仲介者を置くべきでは?

例えば独立シンクタンク→政府シンクタンク→政策決定者


英語での研究成果発表の重要性

政府は海外での評価を気にするし、海外の報道機関は内情を知りたがっている。



欧米のシンクタンク

プレスリリースに労力を割いて、一般向けに研究内容を伝える

一般、あるいは政治家・官僚向けに講義をしてそれも収入源に。

一般への啓蒙活動は、欧米のシンクタンクも十分ではない


どのようなスタッフを集めるべきか?

日本にはシンクタンクの研究員として十分な能力を持った人間がそれほどいないのではないか?

いたとしても、相応の地位についており、不安定な新興のシンクタンクに来ないのではないか?

シンクタンクには終身雇用制を導入しない方がいいと思うが、それも人材を集める点では不利に働く。

まずは少人数のシニア研究員のみで始め、実績を積み上げてから規模を拡大すべき

大学や他のシンクタンク、政府等のポジションを渡り歩けることも示す必要がある。

所長のリーダーシップが重要

政策研究員と研究所教授の二つの肩書を持たせるべき

米国の修士・博士号取得者を受け入れるべきでは?

日本ではハブられる可能性もある。

政府高官を受け入れるのは?例えば日銀→野村総研の鈴木淑夫氏や通産→電通総研の天谷直弘氏

辞めた官僚をその能力を行かせる形で受け入れる機関が少ない

一度受け入れると、慣習化してしまうという懸念も


外国人研究員の受け入れについて

即戦力になるし、研究所の評価を高める

日本の事情に疎いし、そこまで労力を割いて学ぼうとしないだろうから、実現性のある政策の提言に至らないのではないか?

扱う問題(例えば第三国援助)によっては力を発揮するかも

(高い英語力に基づく)欧米研究の紹介や欧米での発表により、内部研究員のレベルを高める?

韓国開発研究所ではこのような戦略が上手く機能した

米国の特定のシンクタンクと密接な関係を持つのはどうか?


運営方法(資金調達法など)について

アーバンインスティチュートは比較的政府に資金を依存しており、半分くらいが政府資金

研究課題も資金源に依存

研究課題を最終的に理事会で決めるシンクタンクは、外部資金への依存度が低い?


少数のシンクタンクが上級研究員に対する公式の実績評価制度を採用

実績がでなければ究極的には解雇だが、解雇よりも有期契約を更新しない方が簡単


広報戦略はシンクタンクの性質によって異なる


小売り型(特定の政策に焦点を当てた提言、政策決定者をターゲットに)

ヘリテージ財団、戦略国際問題研究センター


卸売り型(やや漠然とした長期的展望を述べる、政策決定者〜一般まで対象は広い)

外交評議会、ブルッキングス研究所、フーバー研究所、ストックホルム国際平和研究所


シンクタンクの刊行物は次第に「読みやすさ」を重視したものに。

口頭のコミュニケーション(ブリ―フィングや昼食会)も重視されてきている


シンクタンクは大部分が数年以内に消えるので、概数を把握するのは困難


資金源はどこか?

ストックホルム国際平和研究所はほぼ全額がスウェーデン政府

基金の長所

独立性の高い研究、外部資金の増減の緩衝材、質の高い研究

基金の短所

外部資金獲得の必要性が減るので、研究の内容が外部から求められている内容と乖離する虞が


シンクタンクの外部評価

シンクタンク側が依頼する場合も

穏健な評価、わずかな方向修正

財政逼迫や(在任期間の長い)所長交代時の評価は影響力が大きい

大幅な方向修正

評価者に対して嫌悪感を抱く者も

評価の頻度はそれほど高くなくてよい


5年以内に達成すべきこと

政策決定の中枢と結びつく

実際に政策に影響を及ぼす(有意義な内容の研究を出す)

マスコミを通じて一般にも情報を発信する



第四章


日本におけるシンクタンク設立の障害

政策研究者およびエコノミストの不足、政策研究を支援する民間資金の不足、情報公開の限界、NPOの持続を可能にする法制度の不備、政策に関する一般の関心の低さ、研究における競争の不活発さ、等々。


最近(1990前後)は人材も資金調達の目途もついてきたので、機は熟しつつあるのではないか?


2つの大きな障壁

NPOを統括する法制度、政府の管理する情報の公開


NPO民法公益法人として扱われる。

各省庁の認可が必要。監督権限は省庁の裁量。

寄付金への課税控除がまだ弱い。


日本のシンクタンクが備えるべき要素について、8つの観点から検討。

政策領域、政策の特性、研究性向、役割と聴衆、資金源、スタッフの特性、研究課題の設定と管理運営、広報普及活動


初期のシンクタンクは、

政策領域:国外の問題を扱った方がいい

政策の特性:卸売り型を目指した方がいい

研究性向:ハード(独自調査)でもソフト(二次資料)でもいいが、政策翻訳(学問を実際の政治に当てはめる)は基礎となる学問が弱いので厳しい

聴衆:リーダー層でもいいし、選挙民でもいいし、国民全般でもいい

資金源:(政府等からの)契約資金は当てにならないので、大型基金か寄付金・会員制に頼るのがよい。(実際は契約資金で動いてるシンクタンクが多いような?)

スタッフ:どのタイプも必要だが、チームワーク型が特に重要ではないか。

管理運営:当初はトップダウン

広報:卸売型の研究を行うならば、(口頭でのコミュニケーションのような)拙速な方法は取らなくてもいいかも


…以降は組織の条件に関する細かい話(研究員の人数は何人がいいかとか)

時間があったら読む。



第五章











巻末に世界の主要シンクタンクの概要など


アメリカン・エンタープライズ公共政策問題研究所

ブルッキングス研究所

ヘリテージ財団

フーバー研究所

国際経済研究所

戦略国際問題研究センター

外交評議会

ヨーロッパ政策研究センター

ストックホルム国際平和研究所

アーバン・インスティチュート